本研究は、個体間での歩行リズムの同調によって生成する歩行運動の動的安定化という特性を、高齢者の転倒予防に活用することを基本構想としている。既に、われわれは、このようなリズムの相互同調現象に着目し、それを人間と機械のあいだで実現しており、具体的には計算機中に構築された仮想歩行ロボット("Walk-Mate")と人間が、足音(歩行リズム)を相互に交換して協調歩行を実現するシステムを提案してきた。そこで本研究では、この歩行介助システムを高齢者に適用し、Walk-Mateとの協調歩行による歩行運動の動的安定化と転倒予防への有効性を評価することが目標である。そこで前年度には、歩行者の腰軌跡から歩行運動の動的安定性を評価する手法を開発した。特に歩行障害ごとの安定性を体系的に調査するために、健康な高齢者、脳神経系疾患(片麻痺やパーキンソン病)、整形外科疾患(股関節疾患)の高齢者を対象として、本計測システムを適用し安定性の評価を試みた。そして、それらの指標化を可能にした。そこで、これらの歩行安定性の指標に基づいて、本年度は歩行介助システムWalk-Mateの高齢者歩行安定化への有効性評価を実施したのである。具体的には、前年度の歩行障害の分類と対応付けて、本年度も健康な高齢者、脳神経系疾患、整形外科疾患の高齢者と対象となる高齢者を分類し、歩行介助システムWalk-Mate使用時の歩行安定性の評価を試みた。手順としては、最初に被験者からの腰軌道データを収集し、これに対して運動学的解析および非線形時系列解析を行い、それらの結果に基づいて動的安定性への有効性を評価した。
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