人と並んで歩くとき思わず足並みが揃ってしまう経験は身近なものであろう。これは身体の運動リズムが個体間で自発的に同調する現象であり、それが相手との一体感や歩行の安定性を生成することも直感的に理解される。申請者らが提案している歩行介助システムは、このようなリズムの相互同調現象(相互引き込み)に着目し、それを人間と機械の間で実現したものである。具体的には、計算機中に構成される仮想歩行ロボット("Walk-Mate")と人間が、足音(歩行リズム)を相互に交換しながら協調歩行を実現する。 本研究では、上記の歩行介助システムを高齢者に適用し、Walk-Mateとの協調歩行による歩行運動の動的安定化と転倒予防への有効性を評価した。特に(1)歩行運動の動的安定性の評価手法の開発、(2)高齢者におけるWalk-Mateとの協調歩行による歩行安定化への有効性評価、そして(3)高齢者における転倒予防への有効性評価を行うことを具体的な目標とした。本年度は、最終年度として(3)の項目に集中して取り組んだ。 その結果、脳神経系疾患(脳卒中による片麻癌)、脳神経系疾患(パーキンソン病)の高齢者を対象として、歩行介助システム使用時の腰軌道データおよび歩行周期の時間変動のデータを収集した。ただし転倒予防への評価では、本歩行介助システムを使用中の被験者に微弱な外乱を加え、それからの回復過程における腰軌道の変容およびその時間変化の揺らぎのフラクタル性の分析を介して安定性を評価した。これらの結果に基づいて転倒予防への有効性を確認することができた。
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