測定環境を整えて基本実験を行った。具体的には、ヒトにTMSを加えて脳波を同時に測定するシステムを構築し、TMS時の脳波測定を安静状態で行った。TMS-脳波測定の最大の技術的な問題としてあげられるのはTMSの瞬間に脳波信号に混入するアーチファクトである。この影響要因を検討し、アーチファクトにより解析できない区間を10msec程度にすることに成功した。これによりTMSによる脳波ダイナミクスの変化をTMS直後から高い精度で測定解析することが可能となった。安静時の運動野へのTMSによる脳波の自発活動の位相リセッティング現象を確認した。さらにMRI解剖画像を用いた個人脳に対応できるTMSコイルのナビゲーションシステムを用いることにより皮質刺激部位の特定を行った。このナビゲーションシステムを用いることで、特定皮質領野を再現性高く刺激することが可能になった。脳波解析方法論についてはwaveletあるいは解析信号を用いた脳波の解析プログラムを開発整備した。このプログラムではまず脳波データを瞬時位相、瞬時振幅、それぞれの時系列信号に変換する。具体的には脳波の生時系列データに事後的に周波数帯域フィルターをかけ、ヒルベルト変換を用いた解析信号化、あるいはウェーブレット変換によって瞬時位相信号及び瞬時振幅信号を抽出する。さらに個々の電極の瞬時位相信号や瞬時振幅信号を解析し、TMSによる位相リセッティング、瞬時振幅の変化を定量化することができる。また異なる二つの電極から得られる位相信号の位相同期度等の定量化も可能である。このようにTMSにより操作される脳活動を脳波ダイナミクスの観点から定量化できるプログラムを整備した。以上のように測定環境、解析方法論を整備し、知覚、反応等の脳機能と脳活動ダイナミクスとの因果関係をTMSで操作的に検証することが可能になった。
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