本研究では経頭蓋磁気刺激により非侵襲的にヒトの大脳皮質の自発活動に干渉し、脳波測定解析により周波数特異的な振動同期ネットワークと脳機能との関連を調べた。 被検者は健常成人10名で、安静・座位で、開眼、閉眼時に経頭蓋磁気刺激を行い、同時に脳波を測定した。左半球の第一運動野を刺激し、右指第一背側骨間筋より筋電図を導出し、運動誘発閾値(100%)を刺激強度とした。脳波は国際10-20法に基づいて19チャンネルで導出し、経頭蓋磁気刺激による脳波アーチファクトを軽減することに成功した。得られた脳波データの時間周波数解析を行った。具体的には解析信号法を用いて、2-50Hzの帯域で1Hzきざみで瞬時位相、瞬時振幅を算出して経頭蓋磁気刺激による脳活動の周波数特異的な変化様相を解析した。 その結果、2-7Hzにおいて経頭蓋磁気刺激による自発活動の位相リセッティング、振幅の上昇を観察した。またその自発活動の位相リセッティング、及び振幅の上昇は刺激部位である運動野から全頭の広い領域に渡って伝搬することが明らかになった。また開眼時には閉眼時に比べてより後頭部の電極まで含んだ広く強い伝搬パターンが観察された。この結果は開眼時には閉眼時に比較するとより大域的で後頭皮質の視覚関連の領野まで含んだネットワーク結合が存在し、そのネットワーク結合は周波数特異的な特性をもつことを示唆する。 経頭蓋磁気刺激は脳の状態依存的な大域的振動同期ネットワークに操作的に干渉可能であり、同時に脳波測定を行うことで振動同期ネットワークの様相を解析することが可能となり、脳機能との関連を研究する手法として本研究の手法は非常に有効であることが明らかになった。
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