本研究はスポーツを教材とする体育でなければ成しえない人間形成の意義を確認しようとするものである。それは「心と体」の問題が児童・生徒の人間的な存在への問いと不可分であるという認識に立って、スポーツにおける人間の生の経験とスポーツを教材とする体育における人間形成の可能性を検討するものでもある。具体的には、スポーツにおける「他者との交流」や「コミュニケーション」から得られる人間の多様な生の経験を体育という人間形成の営みに取り込もうとした。そして、児童・生徒が直面する「心と体の問題」の解決に向けてわれわれも貢献できるのだという観点から、「スポーツと人間の生の経験」「スポーツの教育的価値」「体育における人間形成」について考察した。平成19年度からスタートした本研究は五つの研究課題を設定して三年の期間にわたって行ってきたが、最終年の平成21年度はグンター・ゲバウア博士(ドイツ連邦共和国・ベルリン自由大学)の著作を基本文献とし、本研究全体の三つ目の課題である「他者どの交流を必然とするスポーツでの人間の生の経験とは何か」、四つ目の研究課題である「『生きる力』を育む体育でのスポーツによる人間形成の可能性」について考察した。その結果スポーツにおける人間の生の経験が体育においてどのような意義を持ち得るのかをある程度明らかにすることができた。また、「いじめ」や「非行」の被害に直面する児童・生徒に対して体育は何ができるのかということを考察しながら、本研究の五番目の研究課題である「体育でなければ成しえない人間形成の意義」についても明らかにした。研究成果は12月に海外共同研究者のゲバウア博士に受けるとともに、3月にカーディフ(連合王国)で開催された英国スポーツ哲学会でも一部を発表した。
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