研究概要 |
身体運動をキネティクス観点から詳細に分析るためには,関節トルクを筋張力のモーメントに分配する問題(分配問題)を解く必要がある.しかし,分配問題を解く際の目的関数すなわち身体運動の動作規範には,様々なものが提案されてきている.そこで本研究では,身体運動,特に移動運動を中心として運動中の筋張力を推定する方法を確立し,動作規範について検討することを目的とした.本年度は,伸張性収縮をともなう動作として着地動作を取り上げ,筋力推定を行った.24名の被験者を対象に,高さが異なる台(20cm,40cm,60cm)から飛び降りて両脚で着地する動作を対象として,関節運動,下肢主要8筋の筋放電,地面反力を計測した.その後,筋の「活性度」「張力」「応力(単位断面積あたりの張力)」を評価対象として,それぞれの2乗和,3乗和,4乗和を目的関数として筋力の推定を行った(張力,応力を用いる際にも,最適化時には活性度を算出している).最後に,整流筋放電と活性度との相関係数に基づいて最適な目的関数の同定を試みた.その結果,着地動作全体を通して適した目的関数は,「筋応力の2乗和」であることが明らかとなった.しかし同時に,着地前の拮抗筋の共縮局面においては,筋力の推定精度が低くなることが問題点として明らかとなった.さらに,過去2年間の研究成果もあわせて検討した.歩・走動作においては,移動速度(歩・走速度)が小さい場合には「活性度の2乗和」が最適であり,移動速度が大きくなるにしたがって3乗和,4乗和とべき乗の数が大きくなることが明らかとなっている.また,跳躍動作においては,「筋応力」が対象となり,跳躍の努力度が大きくなるにしたがって筋応力の2乗和,3乗和,4乗和とべき乗の数が大きくなることが明らかとなっている.以上の結果を総合的に評価すると,最適化における目的関するに関して,複数の先行研究で「活性度の3乗和が目的関数として適している」と言われてきたことに対して異議を唱えるものであり,重要な結論を得たといえよう.
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