息止め運動時の昇圧反応に、筋代謝受容器反射が関与していることを明らかにすることを目的とした。13名の健康な男女を被験者とした。半仰臥位姿勢での膝伸展運動を用い、HRが約100拍/分になるよう被験者ごとに負荷を設定した。被験者は息止めあり(BH)となし(C)の2条件で実験を行い、BHでは運動を始めて4分後に吸気止めを限界まで行ない、呼吸再開と同時に大腿の付け根に巻いたカフで阻血を行った。Cでは呼吸を止めることなくBHと同じ条件で測定を行った。この時HR、平均血圧(MAP)、一回拍出量(SV)、CO、動脈血酸素飽和度(SpO2)、総末梢血管コンダクタンス(TVC)を測定した。また、上記の実験とは別に超音波ドップラー法により大腿動脈(活動筋)血流量(LBF)、下肢血管コンダクタンス(LVC)を測定した。息止め前運動時の平均値をベースラインとし、息止め運動により最も反応が大きく出た1拍をピーク値とした。運動中に息を止めることによって(1)顕著な徐脈反応、(2)SpO2の低下、(3)CO及びSVの低下、(4)TVCの低下、(5)LBF及びLVCの低下、(6)顕著な血圧上昇が生じた。さらに、(7)運動終了後の阻血時のMAPは、Cよりも20.6mmHg高くなった。阻血中は運動を終了しているため、セントラルコマンドや筋機械受容器反射は働いておらず、筋代謝受容器のみを選択的に刺激していると考えられる。したがって、息止めありとなしの2条件下のMAPの差は、筋代謝受容器由来の昇圧反応であると考えられる。これらのことから、運動中の息止めによってLBFは安静時値近くまで低下して、これに伴いエネルギー生成が無酸素性に傾き、活動筋内に代謝産物が蓄積され、筋代謝受容器反射が働き血圧が上昇したと考えられる。本研究より、筋代謝受容器が運動時の息止めにより引き起こされる血圧上昇に対する貢献割合は、2~4割程度であることが示唆された。
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