研究概要 |
本年度は以下の3つの研究を実施した。 (1)心理的変動の代表的なものとして,種々の発表会や演奏会,試合などの心理的緊張場面がある。その一例として,ピアノ演奏をとりあげ,練習と聴衆の前での演奏会とで,自律神経活動,筋活動,動作,及びパフォーマンスにどのような違いが生じるかを検討した。出来るだけ現実に近い心理的緊張を与えるために,実際にプロピアニスト5名を審査員とし,実験器具を装着した実験被験者として演奏することを条件として出場者を公募して,アマチュア部門と音楽大学在学プロ志望者部門からなる本当のピアノコンクールを開催した結果,多くの被験者において,練習時に比べ,コンクール時には演奏開始直前から徐々に心拍数が増加し始め,演奏開始とともに急激に上昇し,演奏終了直後に急激に減少する傾向が見られた。中には演奏中に運動中の最大心拍数に近い,180/minに達する者もあった。また,コンクール演奏中の上肢筋群および僧帽筋の筋活動は練習時に比べて増大した。特に,振幅の小さい筋活動が特異的に増加し,リラクセーションの低下が生じる結果,打鍵速度と打鍵強度が増大して,弱音の制御が乱れ,演奏時間も短縮して,審査員の評価も低下するという心理的緊張の悪影響の因果関係が明らかとなった。 (2)意識的にペースを変動させる長距離競走のような場合に,速度変化に応じて走行パターンにどのような変化が生じるかをトレッドミル走を用いて検討した。その結果,熟練長距離ランナーは,一般人に比べて一歩あたりの周期の変動係数が小さく,しかも長期時間相関指数が1に近い安定した走行パターンを示すことが明らかとなった。 (3)心理,情動過程の脳内機構研究のため動物脳スライス標本を用いた電気生理学的解析を行った結果,動機付けや報酬に関係の深いドーパミンが扁桃体神経回路リズムを修飾することが明らかとなった。
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