研究概要 |
本年度は最終年度にあたるため,これまでの研究データの解析および成果の公表を主眼として活動し,別記のとおり,4編の学術論文を刊行した。その概要は次の通りである。 ・Effects of state anxiety on music performance : relationship between the revised competitive state anxiety inventory-2 subscales and piano performance.競技スポーツ用状態不安テスト修正版CSAI-2Rを用いてピアノ演奏成績と状態不安との関係を検討した結果,自信と演奏成績は正の相関を,認知不安と正確さは負の相関を示した。 ・Motor/autonomic stress responses in a competitive piano perfomance.熟練ピアニストにおいて,ピアノ演奏の質,自律系覚醒水準,上肢筋活動水準は,リハーサルに比べてコンクールにおいて有意に増大した。 ・Music performance anxiety in skilled pianists : effects of social-evaluative performance situation on subjective, autonomic, and electromyographic reactions.高度熟練ピアニストの練習時とコンクール本番時の心理変数,自律応答,筋活動などを比較することによって,社会的評価場面における心理的変動が心拍数,発汗量,上肢筋活動の増強を引き起こすことを証明した。 ・Variability and fluctuation in the running gait cycle of trained runners and non-runners.意識的にペースを変動させてトレッドミル走を行わせた結果,熟練長距離ランナーは,一般人に比べて一歩あたりの周期の変動係数,フラクタル解析によるスケーリング指数αが小さかったことから,熟練者がランニング動作の時空間構造の自由度を喪失することなく変動の大きさを減少させていることをが明らかとなった。 さらにまた,新たな補足研究として以下の研究を実施した。 ピアノ演奏を用いた昨年までの研究によって,代表的な心理的変動のひとつである,公開審査による心理的緊張によって,心拍数の増加,筋活動強度の増加,拮抗筋同時筋収縮の増加,打鍵速度の増加など,自律神経活動,筋活動,動作及びパフォーマンスに及ぼす影響が明らかとなった。それらの行動科学的変動は,脳の活動変化に起因しているので,心理的緊張によって脳活動がどのように変化するのかを解明するために,脳波を用いた解析を行った。心理的緊張度の高いグループと低いグループを設けるために,約300人に演奏不安尺度および多次元完全主義認知尺度に関する質問紙調査を行って被験者を募集した。その結果,半数以上の演奏家が演奏不安に悩まされていることが明らかになり,中程度の演奏不安と完全主義傾向との間に有意な相関のあることが認められた。さらに,演奏不安尺度の高得点群では,低得点群に比べて心理的ストレス下での演奏において運動準備電位の振幅が増大するという仮説を検証するための実験を遂行した。この実験結果については現在解析中である。
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