研究概要 |
ネオクリンとミラクリンは,酸味を甘味に変換するユニークな活性を有するタンパク質である。ネオクリンは,西マレーシア原産のフルーツCurculigolatiforiaの果実に存在し,この果物を口に含むと爽やかな甘味を感じるが,その甘味はやがて消失する。しかし,その後,酸や水を味わうと甘く感じられ,その活性は数十分持続する。一方,ミラクリンは,ミラクルフルーツの実に含まれ,ネオクリンと同様,酸を甘味に変える活性をもつが,それ自身を味わっても甘味は感じられない。一般的に酸味は甘味とは異なり,腐敗物を連想させる味として必ずしも好ましいとは認知されない。しかし,酸は体調を整えたり,体内のpHバランスを調整するために必要で,近年,酢の健康への効果が注目されるている。本申請研究では,酸を誰もが好ましい味と感じる甘味に変化させる味覚修飾タンパク質を利用して,酸を摂取しやすくすると同時に,低カロリー甘味料をしても利用する試みである。 この目的のためには,ネオクリンやミラクリンが相当量必要であるが,現在果実より抽出する方法が主たるものであるが,亜熱帯産の植物であり,日本における生産量は制限され,安定した供給は難しい。本年度は,ミラクリンを麹菌を用いて発現させ,天然ミラクリンと同様の活性を有する組み換えミラクリンを作製することに成功した。麹菌はGRASに指定されている菌で,食品として利用することができる。さらにこの系を用いてミラクリン変異体を作製し,味覚修飾活性に関与するアミノ酸の同定を試みたところ,ヒスチジンをアラニンに変換させた場合に味覚修飾活性を失った。また,天然ミラクリンはホモダイマーを形成しているが,モノマーのミラクリンは活性がなく,味覚修飾活性を発現するためには,ダイマーを形成する必要があることも明らかとなった。
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