大腸菌O157は胃の酸性バリアーを容易に通過できる高い酸耐性をもち、また有害なべロ毒素を生産する。このような本病原体の性質は、細胞の生理学的な状態によって変動することが知られているが、食事の直前に使用される電子レンジの影響については、これまで調べられていない。電子レンジはマイクロ波の二次的な加熱作用を利用したものであり、マイクロ波は生体に対して様々な影響を及ぼすことが知られている。本研究では、本病原体に対するマイクロ波の影響を調べ、大腸菌O157を弱毒化することを目的とした。本年度の研究においては、大腸菌O157の生細胞数変化に対するマイクロ波の影響を調べた。電子レンジを使用して、5mlの大腸菌O157細胞懸濁液(3×10^5cells/ml)の最終温度が40℃及び60℃になる条件を検討し、それぞれ170Wで30秒間と700Wで7秒間の処理条件を設定した。この電子レンジ処理を行った後の生存率はそれぞれ約65%と約10%であった。大腸菌O157は40℃で死滅しないと考えられるが、このような電子レンジ処理により細胞に何らかの損傷が生じたと考えられる。続いて、電子レンジ処理を行った細胞の酸耐性を調べたところ、意外にも酸耐性の低下は見られないことが判明した。その原因を検討したところ、電子レンジ処理後の酸処理(pH3のLB培地中で37℃1時間インキュベーション)中に、損傷細胞の修復が起こることが判明した。一方、上述した電子レンジ処理の後、新しい培地に植え継いで培養した大腸菌O157のべロ毒素生産性は、低下する傾向にあることが判明した。同様の傾向は、マイクロ波の作用を二次的な加熱作用と切り離して調べることが可能な、マイクロ波発生装置(グリーンモチーフ、東京電子)を用いた実験でも確認できた。以上の結果から、マイクロ波は大腸菌0157のべロ毒素生産性を抑制するものと考えられた。
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