研究概要 |
大腸菌0157は胃の酸性バリアーを容易に通過できる高い酸耐性をもち,また有害なベロ毒素を生産する。このような本病原体の性質は,細胞の生理学的な状態によって変動することが知られているが,食事の直前に使用される電子レンジの影響についてはこれまで調べられていない。前年度は,大腸菌0157に対するマイクロ波の影響を検討し,マイクロ波によりベロ毒素生産性が低下することを明らかにした。今年度は,種々の食品に接種した大腸菌0157に対する電子レンジの影響を検討した。様々な条件で電子レンジ処理を行った後の本菌の生存率は,香辛料を含むカレーやシチューで著しく低く,デンプンを含む白がゆで高くなった。また酸耐性は,栄養培地に接種した場合に比べて,食品中に接種した場合に低くなった。この結果から,本菌の生存率と酸耐性には,食品の種類が大きく影響すると考えられた。ベロ毒素生産性も同様に,食品中に接種したほうが栄養培地に接種した場合に比べて著しく低くなった。また,電子レンジの二次的な加熱作用を排除するため,マイクロ波照射により温度を37℃に制御してマイクロ波を照射した場合にも,ベロ毒素生産性は大きく低下することが判明した。 以上のことから,食品に混入した大腸菌0157のベロ毒素生産性や酸耐性は,食品の影響を受けて低下し,さらに電子レンジ処理により大きく低下すると考えられ,本病原体の感染力低下に電子レンジ処理は有効であると考えられた。
|