研究概要 |
目的:本研究の目的は,数学教育における代数領域と幾何領域を対象とし,近赤外線による光計測装置による課題遂行時の脳内のヘモグロビン濃度変化を測定・分析することを通して,生理学的データによる学習モデルの構築を行うことである。 方法:光計測装置による計測実験に適した実験課題を開発し,大学生を被験者として実験を実施し,学習モデルの構築を行う。代数課題として,連立方程式のアルゴリズムを説明する課題を,また,幾何課題として,合同図形作製に関するタングラムを用いた課題を開発した。大学生を被験者として,代数課題9名,幾何題開17名,計26名を対象に,光計測装置による計測実験を行った。 成果:代数課題では,連立方程式の解答時と説明時とでは,ヘモグロビン濃度変化に差異が生じることが明らかになった。解答時にはヘモグロビン濃度の上昇が見られ,説明時にはヘモグロビン濃度の上下変化が見られる等,課題遂行の方法の違いにより,異なる結果となった。また,幾何課題では,複数回の課題遂行により,方略を獲得した被験者は,ヘモグロビン濃度の上昇が抑制され,最後まで方略が未獲得の被験者は,ヘモグロビン濃度の上昇が継続するという結果となった。代数課題における,解答時と説明時の脳内変化の差異は,問題を解くという行為と,他者に説明するという行為が,異なる脳活動を要請していることを示唆するものであり,他者へ説明することの教育的意義を検討する上での生理学的データとなる可能性が認められた。また,幾何課題における,方略獲得の有無の問題は,図形の構成要素を瞬時に判別することが可能となるかどうかといった幾何課題特有のものであり,学習効果を高めるための方策を考える上での知見を得る際に有効なデータとなる。 今後の課題:上記の実験内容を小学生用に改良し,実際に学習過程にある学齢期の児童におけるデータ取得とその特徴を解明することである。
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