研究概要 |
本研究の目的は,数学教育における計算領域と図形領域を対象とし,課題遂行時の脳活動を計測・分析することを通して学習モデルの構築を行い,それらを指導方法の改善に活かすことである。計算課題として除法虫食い算課題を,図形課題としてタングラム課題を設定し,小学生を対象として,課題遂行時に定期的なヒントを提示することにより,課題方略獲得過程における前頭前野部のヘモグロビン濃度変化の特徴を分析し,各領域の学習モデルの構築を行った。また,難度の異なる3種類の加法をランダムに提示する課題を設定し,大学生を対象として脳活動計測を実施し,学習モデルの精緻化に努めるとともに,双方の実験をもとに指導方法の改善について検討した。 小学生8名に対する計算,図形課題の実験分析の結果,課題方略の獲得の有無によって,ヘモグロビン濃度変化に差異が生じることが明らかになった。とりわけ,計算課題では,被験者の方略獲得の有無により脳活動データに大差が見られ,方略未獲得群ではヘモグロビンが上昇を続けるという学習者の特性(学習モデル)が検出されたことから,方略獲得に関する十分な指導の必要性が示唆された。図形課題では,方略の獲得の有無では大差が見られず,問題別の脳活動データに大差が見られるという学習モデルが検出されたことから,一つの解法に習熟させるよりも,多くのタイプの問題に取り組ませることの必要性が示唆された。一方,大学生25名に対する加法課題の実験分析の結果,課題の難度とヘモグロビン濃度の高低が対応する被験者は16名であり,難度と脳活動が対応するという学習モデルが検出された。また,それらが対応しない被験者の場合,難度による解答時間や正答率の差が小さい等,被験者が難度差を感じていないことが明らかになったことから,一斉授業であっても各学習者に適正な難度の問題を提供することの重要性が,脳活動データにおいても検証された。
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