研究概要 |
平成19年度はまず理化学研究所の中央研究所(現在基幹研究所に名称変更)を中心として,過去総計300近い研究室に関してデータベースを作成し,その歴史的,遡及的調査から,歴史的な連続性が最も高いと思われるいくつかの研究室を割り出した。それらの中でも最も継続性の高い研究室として抗生物質研究室を取り上げ,2007年夏より現場における参与観察調査を開始した。当研究室が主導するケミカル,バイオロジーについての現場での知見を得ると同時に,主任研究員以下,主要な研究員,ポスドク,旧研究員(現在京都大学教員),さらに研究室に関係の深い,スクリブス研究所のウォン教授等に詳細なインタビューを行った。 この調査過程で,研究スタッフが過去および現在所属している研究室の経験を通じて,研究スタイルのいくつかのバリエーション(たとえばそのラボ全体で特定のテーマに狭く集中するか,あるいは分業体制でその守備範囲を広くとるか,手持ちのリソースを中心に業績を作りだすか,それとも研究目的を定めて,それにふさわしい形で人材を配備するような目的指向型をとるか,さらに日本とアメリカのトップレベルの研究室における研究スタイルの差)といったような論点が,インタビューの結果明らかになりつつある。 またリサーチ,パスが個別の研究員,ラボ全体のレベル,その研究領域のマクロの動向の三つが複雑に絡み合っている様子が明らかになっているが,特にサンプルとしてのケミカル。バイオロジーは,現在急激に国際的な制度化が進むと同時に,理化学研究所内部でも,制度的な柱の一つになりつつあるため,個別の研究員の研究戦略はその動向に強い影響をうけている現状について分析を行った。さらに研究者の戦略形成の重要なポイントとして,リサーチが直面する隘路(研究がうまく進まない,あるいは大きな困難が予想されるような)に関して,どのような戦略が採用されるかを分析した。複数の課題に対してスキルの異なる研究員をどのように配置するかは,ラボ経営における重要な戦略的基礎であるが,その戦略的配置が機能する条件について,検討を行った。
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