研究課題/領域番号 |
19300293
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
福島 真人 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 教授 (10202285)
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研究分担者 |
上野 彰 文部科学省科学技術政策研究所, 第2研究グループ, 主任研究員 (40425830)
木村 忠正 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 准教授 (00278045)
古賀 広志 関西大学, 総合情報学部, 准教授 (20258312)
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キーワード | 科学社会学 / サイエンス・スタディーズ / イノベーション研究 |
研究概要 |
平成21年度は、平成20年度で行った、ケミカルバイオロジー領域の発展について、それを歴史的に裏付ける作業、およびこの分野全体の拡大の様子を聞き取り等によって明らかにするという作業を行った。特に重要なのは、調査の中心的対象となった理化学研究所抗生物質研究室が帰属する歴史的な背景としての農芸化学領域において、こうした化学と生物学の中間領域を扱うという発想がすでに長期的に存在し、ケミカルバイオロジーという名称自体もすでに70年代から使用されているという事態である。こうした流れの中で、ある種の歴史的な連続性の中でケミカルバイオロジーの重要性が認識される文脈がある一方、別の重要な系列、たとえば薬理学的な系列では、こうした認識とは異なる形でケミカルバイオロジーの意味を認識し、むしろNIH(アメリカ国立衛生研究所)による2003年のロードマップ(化合物ライブラリとスクリーニングセンターを全国規模に展開することで、ポストゲノムの創薬戦略を展開するというプラン)に強く反応することで、世界初の学会形成につながるという動態が明らかになった。さらにこうしたミクロレベルの動態が、特に化合物バンク、あるいはスクリーニングセンターという形で、全国レベルの政策的展開と密接に関係を持っているという点から、すでにこのラボの動きは、個別の研究者のパスを越えて、政策レベルの含意を強く持つことが明らかになってきたので、ラボの活動と政策にからむ側面についての、聞き取りも行った。特にここで重要なのは、化合物バンクが持つ、創薬とのかかわりであり、ある意味でその動きは行政のそれと連動しており、すでに個別のラボのリサーチ・パスをこえ、研究所全体の創薬プラットフォーム、さらにポストゲノムの重要なバイオ政策である、タンパク3000プロジェクトや、その後継である、ターゲットタンパクプロジェクトと密接にかかわっていることを明らかにした。こうした調査の結果、研究当初想定されていた、個人研究者やラボレベルでのリサーチパスやリサーチ戦略が、すくなくともこの事例の場合、国家レベルの政策や、国際的ポストゲノムの研究体制の確立の過程と密接にかかわっているという点が明らかになり、リサーチパスの概念を政策過程研究と結びつける、方法的、実証的な基盤を構築することが可能になってきた。また同時並行的に行ってきた、ナノバイオロジーのコミュニティ形成のリサーチパス研究からは、両者ともある種の新たな装置、分析方法を確立するためのさまざまな戦略の必要性という意味では戦略的な共通点もあるものの、他方その領域がポストゲノムにおける創薬という政治的に重要なアジェンダとの距離感が異なるために、結果としては、かなり異なるリサーチパスを描いていることを明らかにした。
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