研究分担者 |
磯貝 明 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 教授 (40191879)
保立 道久 東京大学, 史料編さん所, 教授 (70092327)
稲葉 政満 東京芸術大学, 美術研究科, 教授 (50135183)
加藤 雅人 東京文化財研究所, 修復技術部, 研究員 (10415622)
高島 晶彦 東京大学, 史料編さん所, 技術職員 (10422437)
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研究概要 |
古文書や史料等の紙でできた文化財を保管する際,その環境を完全なものにすることは困難であり,適切でない場口は劣化がどんどん進行していく。史料あるいは美術的価値を維持するために修復が行われるが,紙を現状よりも劣化させないということは修復に必須の要件である。 現状で行われている修復法を知ることをこの研究の第一歩と考えた。東京大学史料編さん所が所蔵する愚昧記(鎌倉幕府が起こされる前後の宮中の様子を綴った三条実房の日記)の修復が奈良国立博物館で行われた。ここで修復手順の調査及び愚昧記料紙(以下,本紙という)の紙質測定を行った。手順の調査では,特に水が使われる工程に注目した。修復の最初の段階では,汚れ及び有機酸を取り除くための水によるクリーニングが行われる。ろ紙の上に本紙を置き,その上に極薄の典具帖紙を保護紙として載せ,溜まらない程度に霧吹きで満遍なく表面を濡らす。水は保護紙と本紙を通過し,ろ紙に吸収される。これを数回繰り返すが,一方向に水が移動することが重要と思われる。この処理後のあとは,板に挟んでプレスし,一方板に貼り付いた状態で乾燥する。いわゆる緊張乾燥に当たり,巻きぐせ等を取り除くことができるが,これがどの程度繊維問結合にダメージを与えるかは,評価しなくてはならないことが伺えた。虫食い部の補修には,補修紙の紙片を同様の形に採取して麩糊を用いて糊付けする。麩糊。糊の99%は水であり,どのような影響があるかを調べる必要があると考えられた。本紙の紙質については,別に機会に発表することにする。 水を使った処理が本紙に与える影響について,現在,機械抄き和紙,酸性洋紙,広葉樹漂白クラフトパルプを用いて調製した手すき紙を,80℃/相対湿度80%条件で1,2,4,8週間の劣化処理を行った。クリーニング処理を模した条件で,紙を濡らし強度変化,寸法変化等を測定する予定である。
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