研究課題/領域番号 |
19300296
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
江前 敏晴 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 准教授 (40203640)
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研究分担者 |
稲葉 政満 東京芸術大学, 美術研究科, 教授 (50135183)
加藤 雅人 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 修復技術部, 研究員 (10415622)
高島 晶彦 東京大学, 史料編さん所, 技術職員 (10422437)
保立 道久 東京大学, 史料編さん所, 教授 (70092327)
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キーワード | 和紙 / 文化財 / 加速劣化処理 / 引張強度 / 比引張エネルギー吸収量 / 破断伸び / 硫酸アルミニウム / ドウサ |
研究概要 |
現在の紙文化財修復工程では、クリーニングや脱酸処理の工程で大量の水を使用する。紙は繊維間の水素結合によりその構造が保たれているが、紙を水に浸漬し水分子を繊維間に浸入させれば繊維間の結合は切れるため、紙を破壊することになる可能性が懸念される。そこで、修理工程における液体の水が文化財本紙に与える影響を検討した。機械抄き酸性洋紙、和紙(ドウサ引き処理ありとなし)、試験用手すき紙(広葉樹漂白クラフトパルプ)を試料とし、80℃65%RH条件で、0〜16週加速劣化処理した。これらの試料を、金属性バットに入れた脱イオン水に、手で通した。ろ紙2枚でこの試料を挟み、さらに合板2枚で挟んで、を98.lkPaの圧力で1分間プレス行った。合板に挟んだまま、23℃、50%RHの条件で、約10kgfの荷重を加えて完全に乾燥させた。pHの変化によると、中性の紙は酸性化するが、酸性の紙はそれ以上酸性が強くならなかったが、硫酸アルミニウムは弱酸性で、劣化により生じた酸性物質も解離度が低いためではないかと考えられた。水処理によりpHが1以上上昇したが、硫酸アルミニウムが溶解して除去されたと考えられた。引張強度では、酸性紙は明らかに低下したが、酸加水分解によるセルロースの劣化が原因である。和紙は、むしろ強度が上がる傾向を示したがが、ドウサ(硫酸アルミニウムカリウム)引きがあると劣化の進行とともに低下に転じた。和紙の比引張エネルギー吸収量(TEA)の劣化処理による変化を見ると、ドウサ引きがないと低下がわずかであったが、ある場合は急速に低下した。破断伸びが小さくなったためである。劣化処理の有無に関わらず水処理により、TEAは増加した。これも破断伸びの影響と考えられた。水処理の乾燥時に収縮が起こると、一見紙力が回復したかに見えるが、本質的な強度の増加とは言えないため、さらに調査が必要である。
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