研究課題/領域番号 |
19300296
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
江前 敏晴 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 准教授 (40203640)
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研究分担者 |
高島 晶彦 東京大学, 史料編さん所, 技術職員 (10422437)
保立 道久 東京大学, 史料編さん所, 教授 (70092327)
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キーワード | 文化財 / 紙 / 修復 / 漂白 / クリーニング / 打ち紙 / 濡れ伸び / 劣化 |
研究概要 |
古文書等の文化財料紙の修復工程で行われる処理法が料紙にどのような影響を与えるのか、例えば極端な場合にはそれを破壊している可能性はあるのか、あるいは損傷を与えることはないのか、などの点を科学的に調査し、適切な処理法を見出そうとする目的で、修復に携わる技術者にアンケート調査を行った。回答者が扱う対象は、和紙だけが63.3%、和紙と洋紙の両方が、21.4%であった。特に特筆すべきは、紙を傷める危険性のある脱酸処理や漂白処理で使用する薬品の種類であった。酸素系の過酸化水素が最も多く、塩素系の次亜塩素酸ナトリウムや次亜塩素酸カルシウムの他、過マンガン酸カリウムも非常に多かった。過マンガン酸カリウムは酸化力が強く、また酸性の中和剤によっても繊維の分解を進めたりすることがあるので、検証が必要と思われる事例がいくつかあった。 また、打ち紙処理は明治期以前の和紙製造工程で行われていたため、古文書料紙の修復紙に打ち紙処理を行うことがある。その場合の物性変化については知られていないため、物性変化を調べた。打ち紙の際の圧縮圧力の増加により、繊維強度が低下したが、繊維の損傷によると考えられた。また、打ち紙により濡れ伸び(濡れたときに伸びる長さ)が大きくなったことから、紙の保管時に吸脱湿があれば寸法変化が大きくなることが予測される。したがって文化財の補修紙に打ち紙処理を施すことは、寸法変化の大きな紙を作ることになることを考慮する必要がある。経年劣化した打ち紙処理を経ている文化財料紙も同様の挙動を取るかもしれないが、経年劣化により寸法安定性が変化する可能性もあるのでも併せて検討する必要があることが示唆された。
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