【目的】経時劣化したAg-Cu合金である明和5匁銀の表面腐食層の構造を解析するとともに、Ag濃度が異なるAg-Cu合金を作製し、各種環境に放置したときの腐食状態を解析する。これにより、金属文化財の保存や修復に有用な基礎的データを得ることが目的である。 【方法】光学顕微鏡やSEM、TEMによる表面および断面からの観察、X線回折や電子線回折による構造解析、EDXによる組成分析、電気化学特性の測定による耐食性を評価した。 【結果】表面色が黒化した明和5匁銀の地金はαCuとαAgの共晶系であり、このうちαCuが優先的に腐食していることを光学顕微鏡観察により見出した。表面腐食層の断面をSTEM、TEM、格子像観察、電子線回折法などにより詳細に調べた結果、数ナノ〜数百ナノの亜酸化銅をマトリックスとし、その中に金属のAg粒子が分散した構造で、厚さが1〜3μmである。亜酸化銅は結晶質部分と非晶質部分(あるいはそれに近い構造)からなっている。淡緑色をした明和5匁銀の同様の解析から、Ag濃度が表面近傍で高いために腐食しにくいことがわかる。Ag濃度が異なるAg-Cu合金を150℃乾燥空気中に放置すると、放置初期に表面酸化層が形成し、その後は変化しない。これに対して、80℃で相対湿度が90%の環境中に同じ試料を放置すると、450時間放置頃までは腐食が経時的に進行し、その後は変化が見られない。電気化学特性を測定したところ、地金中のAg濃度の増大とともに表面皮膜の腐食に対する強度が増し、不働態化していくことを見出した。皮膜の強度をサイクリックボルタモグラムの測定により解析し、この膜は非可逆的な膜であることを見出した。これらの結果をもとに、表面を150℃で酸化処理した試料の耐食性を調べるなど腐食層の構造の解析をもとに、防食処理への適用の可能性について検討を開始した。
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