保存状態が異なる2種類の明和5匁銀(Ag-Cu系の共晶合金)の表面腐食層を解析した。この貨幣はαAg相とαCu相の2種類からなり、黒色化した試料からは金属表面のαCuが優先腐食している。大気中に含まれる0やS、Clは優先的に反応している。断面TEM観察から、Cuは亜酸化銅に酸化され、はき出されたAgは亜酸化銅中に30nmの粒子として存在していた。これに対して、保存状態が良好な試料では表面がαAgで覆われ、最表面に20nm厚さの亜酸化銅層が生成している。Agは表面に酸化銀層を形成し、不働態化することを電気化学的に明らかにし、保存状態の相違は最表面層の金属層によるものであることを明らかにした。このような耐食性の違いは電気化学特性の測定から明らかにした。 Fe系材料の腐食状態を調査した。20年間以上、海岸近傍に位置する建築物に用いられた鉄骨の腐食状態を調査し、試料を採取して分析した。試料は表面と地金に近い面とではFeの酸化状態が異なる。塩素イオンによる強制的に腐食させた試料の断面の層構造を解析したところ、酸素の拡散が鉄の酸化に大きく影響している。 CuおよびCu-Sn系合金からなる江戸時代貨幣を分析したところ、組成により表面に生成する腐食生成物が異なる。この原因が金属組織に依存していると推定され、現在、その関係について解析を進めている。
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