インドにおいて4箇所の工房を調査した。調査内容は前年度までの韓国工房と同じで、サーモグラフによる加工温度の測定、製品の金属組織分析、成分分析、工程記録、工具の実測、工房の実測、技術継承系譜の聞き取り調査などである。錫23%の鋺修理と純銅鍛造及び錫15%程度の青銅容器鋳造の工房1軒、錫比率は不明な高錫青銅青銅器鋳造工房1軒、錫23%の高錫青銅鋺工房1軒、錫23%のシンバルなどの楽器工房1軒である。この中で、熱間鍛造で厚さ0.2mmまで薄く叩き延ばす技法の温度測定を繰り返し行い貴重なデータが収集できた。韓国の鍮器製作と似ているが、鍛造製品の需要が韓国よりも高く、古代の高錫青銅器鍛造技法を研究する上で極めて有用な調査となった。 デカンカレッジ(インド、プネ市)において、シンデ教授と高錫青銅器の共同研究を行った。銅鋺やバングル、ナイフなどを調査し高錫青銅を熱間鍛造していることが判明したが、韓半島の鍛造品とは異なる金属層があり、今後の分析が期待される。 2009年11月、韓国金海市仁済大学を会場として、平成21年度二国間交流事業(韓国とのセミナー)を開催した。「韓半島の高錫青銅器の熱処理技術・製作技術」というテーマで、日韓10件の発表をおこない、討論会をおこなった。内容は、高麗、朝鮮時代の高錫青銅で製作された銅鋺の成分分析や金属組織観察研究、現代の鍮器工房の製作工程や熱処理技法研究、法隆寺宝物の高錫青銅器研究、アジアの高錫青銅器分布研究など多岐にわたり、韓国内の工房調査、韓半島古代の高錫器、アジアの変遷など本科研の前半の中間成果をまとめた。
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