本研究は、奈良文化財研究所に設置したマイクロフォーカスX線CT装置を用いて、調査対象の断層画像を撮影し、得られた画像をもとに非破壊で年輪年代測定する技術を木造神像彫刻の調査に応用するものである。この研究方法は、研究代表者の発明として、本年度に特許取得を果たしている。 日本美術史の研究において、神像彫刻の研究は、仏像彫刻のそれと比較して研究の蓄積が十分とはいいがたく、年輪年代学のような自然科学的年代測定法が果たしうる意義は大きい。 2009年度は、滋賀・金勝寺僧形神坐像(2躯・栗東歴史民俗博物館寄託)、奈良・玉龍寺女神坐像(滋賀県立安土城考古博物館寄託)、滋賀・本隆寺僧形男神坐像(県指定文化財)、大阪・大門寺蔵王権現立像(3躯)などを奈良文化財研究所へ美術輸送し、同法による非破壊年輪年代調査を実施した。このうち奈良・玉龍寺女神坐像からは、像中に残存する最も新しい年輪の年代として、1179年の年輪年代を得ることができた。従来この女神像は、様式などの特徴などをもとに室町時代頃の作とする見解も示されてきただけに、得られた年輪年代と美術史学的な年代観の隔たりをどのように解釈するのか、今後の研究課題となる。 また、調査を実施した神像彫刻は大きさや形態が様々であり、それぞれに適した撮像条件や安定した設置法を適切に措置することが重要であった。これらの最適条件を決定するために、模擬試料を用いた予備実験を重ねたうえで専用治具を製作するなど、調査を進めるにあたっての技術的な蓄積を図ることができた。今後、同種の調査を円滑に実施するうえでも、これら一連の研究過程で得られた調査技術の蓄積も貴重な実績となる。
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