本研究は、マイクロフォーカスX線CT装置を用いて調査対象の断層画像を撮影し、得られた高解像の画像をもとに非破壊で年輪年代測定する技術を木造神像彫刻の調査に応用するものである。神像彫刻の場合、彩色や古色が施されていたり、あるいは像表面が風食したりしていて、従来のように調査対象表面では正確な年輪データが計測困難な場合が少なくない。 本年度は、奈良・與喜天満神社神像群5躯、個人蔵男神坐像2躯、個人蔵男神坐像・女神坐像各1躯などについて、同装置を用いて非破壊年輪年代調査を実施した。とくに奈良・與喜天満神社神像群については、美術史研究上もたいへん興味深い深い造形のものであり、奈良国立博物館の特別陳列にあわせて調査を実施した。 また、個人蔵の神像については、本研究テーマで掲げる非破壊年輪年代測定とともに放射性炭素年代測定を比較対照する実験を実施した。放射性炭素年代測定は、最新の加速質量分析(AMS)法といえどもごく微量の試料採取を必要とするため、非破壊を原則とする美術彫刻文化財への適用は困難な場合が多い。しかし、年輪年代が求まらない場合などにはたいへん有効な方法であり、今後同法の美術彫刻分野での活用を図るためには、調査対象の価値を損なうことなくいかにして調査試料を採取するかが重要になる。非破壊年輪年代測定法と放射性炭素年代測定法を組合せた自然科学的年代測定法の確立を目指し、今後の新たな展開を視野に入れ、試料採取の調査技法などについても研究した。
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