研究課題
本研究の目的は、日本各地の森林で採取された樹木試料及び、歴史学的・考古学的・地質学的に得られた木材試料の中に見られる"年輪"から、セルロースを抽出し、その酸素・水素・炭素同位体比を測定することで、過去数百〜数千年間以上に亘る日本各地の水循環の変動を、高い時空間分解能で復元することである。本研究では、樹木年輪同位体比の情報を、地球温暖化の影響評価等の気候変動の解析に生かすために、日本各地の莫大な数の年輪試料を迅速に分析できる体制を整えると共に、得られた年輪同位体比の時空間変動のデータを、気候学的に解析して、新しい気候変動研究の方法論を確立することを目指している。平成20年度には、連携研究者(光谷)らが、既に収集し、年代決定済みの日本全国の現生及び埋没木材試料を対象にして、研究代表者(中塚)が年輪からセルロースを抽出し、研究分担者(河村)と協力して、その酸素・水素・炭素同位体比を測定して、日本各地の過去数百年間に亘る年輪同位体比の年単位での空間分布や、弥生・古墳時代の同位体比の長期経年変化パターンを明らかにした。現生木の年輪同位体比(特に酸素同位体比)を、日本各地の気象観測データや全球気象データと比較した結果、年輪の酸素同位体比が、主に夏季の相対湿度(降水量)を普遍的に記録していると同時に、それらの時空間変化の解析から、オホーツク海高気圧の変動などの広域気象要素の復元が可能であること等を、明らかにした。また、現在と小氷期の同位体比の周期変動パターンの相違から、小氷期の気候システムが、現在と本質的に異なっていた可能性などが分ってきた。更に、弥生・古墳時代の酸素同位体比の時系列データから、魏志倭人伝に書かれる当時の日本の政治情勢の変化に、水循環の変動が如何に関わっていたか、など新たな研究の方向性も見えつつある。
すべて 2008
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Journal of Geophysical Research 113
ページ: D18103
月刊地球 30
ページ: 207-215