研究課題
本研究の目的は、日本各地の森林で採取された樹木試料及び、歴史学・考古学・地質学的に得られた木材試料の中に見られる"年輪"から、セルロースを抽出し、その同位体比、特に酸素同位体比を測定することで、過去数百~数千年間に亘る日本各地の水循環の変動を、高い時空間分解能で復元することにある。樹木年輪同位体比を、地球温暖化の影響評価等の気候変動の解析に生かすために、本研究では日本各地の莫大な数の年輪試料を迅速に分析できる体制を整えると共に、得られた年輪同位体比の時空間変動のデータを気候学的に解析して、新しい気候変動研究の方法論を確立することを目指してきた。平成21年度は、研究代表者(中塚)が、前年度までに北海道から南西諸島に至る様々な地域で取得してきた樹木年輪セルロースの酸素同位体比のデータを用いて、日本の気候変動のメカニズムと、その地域特性について解析すると共に、中国北部の山西省から得られた過去4世紀に亘るカラマツなどの3つの樹種の年輪の酸素同位体比の分析を、研究分担者(河村)らと協力して進め、小氷期から現在に至る日本の気候変動を規定する広域の大気環境について解析を行い、小氷期には、数十年周期での大きな大気循環の変動が、東アジアの広域で生じることなどを新たに明らかにした。また年輪セルロースの同位体比データの樹種毎の特性をより深く理解するために、研究代表者(中塚)が研究分担者(安江)らと協力して、信州大学演習林の同じ場所で生育しているカラマツ、スギ、アカマツの年輪同位体比の分析を進め、樹種が異なっても、基本的な酸素同位体比の変動パターンに差はないこと、しかし樹種間で一日の中での気象、特に相対湿度のデータを記録している"時間帯"が違うことなどが新たに発見された。こうした解析や発見は、樹木年輪を用いた長期かつ高解像度の気候変動の研究に、新しい意義と方向性を付与するものとなった。
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月刊海洋 42
ページ: 133-141
"Earth, Life and Isotope", edited by N. Ohkouchi, Kyoto University Press (論文集) 2010(印刷中)