研究概要 |
本研究は,これまで日本沿岸を中心に行われてきた沿岸海底湧水(SGD)の成果を踏まえ,海洋大循環の1/10モデルとされる日本海における淡水・熱収支を明らかし,SGDによる海水沈み込み及び海洋循環への影響解明を目的としている。初年度は主に下記の内容を中心に研究を進めた。1)SGDの淡水・熱輸送の実態降水の全てがSGDとして流出する利尻島をフィールドに,これまで確認できた湧水点で観測を行った。陸域では秋季及び春季において2回調査し,SGDの源である陸水(井水・自噴水・渓流等)の同位体的・水文学的特徴や流動状況,特に熱フラックスの観点から温度の季節変化を明らかにした。また海域では,ダイバーの潜水調査でSGD等を採取し,化学成分・栄養塩濃度を分析した。その結果,(1)SGDは沿岸部自噴水(被圧地下水)そのものであり,涵養高度の異なった降水の混合で構成された;(2)成分・滞留時間が一定で,温度の季節変化も少ない(6.3±0.8℃);(3)沿岸表層海水に比べSGDは栄養塩に富み(Si:128;N:58;P:15倍),Si:N:P比は238:8:1となり結果的にN制限の環境を作った;(4)淡水中N濃度はsiと逆相関にあり,^<17>O(NO_3^-)の結果より, Nの約9割が森林等に由来すると考えられた。2)SGDと海氷形成への影響オホーツク海に隣接するサロマ湖・能取湖において,まずこれまでの文献の調査・整理と調査協力体勢の準備に取り掛った。現地における予備調査の結果,サロマ湖とオホーツク海を隔てる砂州には湧き水の存在が確認され,海跡湖底層水にも低塩分水シグナルが観測された。また,能取湖では月ごとの定点調査により,底層水は夏季を中心に低塩分水の影響を受けていることが分かった。更に,改良型フラックスチャンバー・温度センサー広域流量計の試運行により,高緯度・少湧出量海域における使用時の問題発見・改良・試作のためのデータ蓄積ができた。これらは,次年度のSGDと海氷形成状況に関する調査地の選定・調査計画の立案と実行に直結する重要な結果となった。
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