研究概要 |
本研究は,これまで日本沿岸を中心に行われてきた沿岸海底湧水(SGD)研究の成果を踏まえ,海洋大循環の1/10モデルとされる日本海における淡水・熱収支を明らかし,SGDによる海水沈み込み及び海洋循環への影響解明を目的としている。平成21年度は本研究計画の最終年度であり,過去2年間の結果に基づき,北海道利尻島周辺及び北日本海北海道沖海域における海洋観測調査研究を計画・実行した。 具体的に利尻島周辺においては,SGDの淡水・熱輸送の観点から,特に水温の季節変化に着目し,SGDなどの淡水と海水との温度差が大きい6月末~7月初めに,北海道大学水産学部の演習船「うしお丸」を用い,北海道大学と共同で利尻島を一周する海域観測調査を行った。 CTD観測及びNISKIN採水を行い,海水におけるマルチプルな組成(水温・塩分・溶存酸素・酸素/水素同位体比など)分析を行った。また,4月下旬に北海道大学水産学部附属練習船「おしょろ丸」並びに9月中旬に長崎大学水産学部練習船「長崎丸」を用いた東日本海盆水塊構造に関する海洋観測調査により,下記の結果が得られた: (1)北海道北西方沖の水深500mの海域に比べ,利尻島周辺では水深20m以浅において低塩分・低温・低溶存酸素水が一様に広がり,SGDによる影響が少なくとも2%以上あり,また,浅瀬に存在するSGDが海水の塩分を約0.35psu低下させることが分かった。 (2)水深60mにおいて,海洋表層同様な低塩分・低温・低溶存酸素水の存在が観測され,海水の塩分を約0.1psu近く低下させ,利尻道周辺では広範囲にわたり水深60mまでSGDによる影響がおよぶことが示唆された。 (3)晩秋~冬季~早春にかけて,温度変化の大きい海洋表層水に対し,利尻島周辺におけるSGDの温度は年間を通じて6~8度で変化は小さい。 3年間における定点及び広域海洋観測の結果を基に,SGDが栄養塩など化学物質のみならず,淡水や熱輪送の重要なルートとして,海洋の成層構造/海洋循環に影響を及ぼしている実証が得られた。
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