研究課題
1) NO_3^-を定量的にN_2Oに変換する脱窒菌と生成したN_2Oを濃縮導入するシステムの組み合わせによりさまざまな試料中のNO_3^-を超高感度で測定できる窒素・酸素同位体比測定システムを確立し、これを用いて以下の測定を行った。2) 中央アルプス山頂付近において全層積雪試料を回収し、高標高山岳域の冬期間における窒素沈着物の窒素および酸素安定同位体比の測定を行った。その結果、NO_3^-のδ^<15>Nは平均値-3.3±0.3‰、δ^<18>Oは平均値75.7±0.8‰であり、高標高域には冬季においても窒素安定同位体比の低い沈着物が負荷されていることが判明した。3) 標高に伴う大気中窒素化合物の窒素安定同位体比変動を解明するため、霧水を採取する装置および大気中のエアロゾルを採取する装置を異なる標高に設置し、回収を開始している。4) 一方、窒素過剰程度の異なる数地域の森林地帯について樹木葉ならびに土壌の全窒素、NO_3^-、NH_4^+、溶存有機窒素の窒素安定同位体比の測定を行った。その結果、窒素過剰の程度の高い ほど土壌のNO_3^-含量は増加、樹木葉ならびに土壌のNO_3^-の窒素安定同位体比は低下する系統的変化が見出され、高標高域とは別の機構により、森林の窒素過剰に伴う窒素安定同位体比変動が生じていることが明確に示された。5) さまざまな地域に生息するニホンザル、ニホンシカ、ツキノワグマの体毛試料を取得し、それらの窒素ならびに炭素安定同位体比の基礎データを集積した。(意義・重要性)窒素沈着物が高標高域で低値を示す事実、一方、より低標高の森林域で窒素過剰に伴って窒素安定同位体比が変動する事実が明確になった。これらは互いに逆方向の同位体比変化である。このような二つの変動機構を分離できたことはこれまで例がなく、世界で始めての知見である。この成果は、同位体比を用いた窒素沈着物負荷の陸域生態系影響の理解の点でブレークスルーとなるものであり、極めて有益である。
すべて 2009 2008
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Pedosphere 19
ページ: 1-10
Ecosystems 12
ページ: 33-45