近年注目を集めているのがアミノ酸の分子レベル同位体比測定である。アミノ酸には動物の体内では合成できずに食物から摂取する必要がある必須アミノ酸と、体内で合成可能な非必須アミノ酸がある。よって、アミノ酸について分子別に同位体比を測定することで、摂取した食物由来のアミノ酸が生体内でどのような挙動を示すのかを解読できると期待されている。実際にHare P.Edgar.らの研究チームは豚にC3植物飼料またはC4植物飼料を摂取させ、アミノ酸の炭素・窒素同位体比の変動を用いて、餌の違いによる合成・代謝のメカニズムを解析している。よって、アミノ酸の同位体組成をトレーサーとして、現代における食環境の経年変化が生体試料へ及ぼす影響を評価する本研究に至った。Hareらは、必須アミノ酸の中で成長作用において最も重要なアミノ酸であるリジンの同位体比が、摂取した食物の同位体比を強く反映することを報告している。つまり、必須アミノ酸と非必須アミノ酸の同位体比をツールとすることで、摂取した食物と生体試料の間でおこるアミノ酸の動態解析が期待される。そこで、本研究では、京都大学が生体試料バンクとして収集した1970年代から現在までの母乳などの生体試料のうち血液試料(血清)を取り上げ、その時代に摂取していた食事についてアミノ酸同位体比分析を行い、過去30年間における食環境の変遷とそれらがヒト血液生体試料への影響評価を行った。生体試料(血清)における必須アミノ酸および非必須アミノ酸の挙動解析に成功、アミノ酸の分子の安定同位体比微小変化を精密解析し、世界で初めての研究成果が得られた。
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