研究概要 |
塩基置換等の突然変異は, 染色体複製の進行と密接に関わり, 複製フォークの停止とそこからの再複製に関する損傷乗り越え複製酵素の諸機能に依存する。一方, 染色体数の変化を伴う異数性は, M期の染色体の分裂とそれに続く細胞分裂が非同調することによって生じると考えられている。DNA損傷等によって生じる異数性にはM期の延長が引き金になっている可能性を考え, この過程に関わる遺伝子の機能を解析した。G2/M期のチェックポイントに関わるシグナルや遺伝子として, ATM/ATR-p53のDNA損傷経路と, p38MAPK経路に関わる遺伝子をノックダウン(あるいは遺伝子破壊)した株を用いた所, 出芽酵母を用いた場合 : 1)紫外線やMMS等のDNA損傷誘発剤の場合, どちらの経路も活性化すること, p38HAPKの活性化と異数性誘発とが対応すること, ATH/ATRは異数性生成には無関係であることが明らかとなった。2)ヒドロキシアミンのような, 塩基置換変異は誘発するが発がん作用の無い物質の場合, どの経路も活性化しないし異数性も誘発しない。3)ベンゼンの様な非変異発がん物質では, ATM/ATRは活性化しないがp38MAPKを活性化し, 異数性も誘発する。一方, ヒト培養細胞では.ATM/ATRの活性化が, G2/M境界の進行を阻害し, その結果中心体の増幅とそれに伴う異数性とが観察された。この場合p38MAPKは活性化されるが, 中心体増幅や異数性生成には関与しない。以上をまとめると, ヒトでも酵母でも, G2/M期境界での細胞周期の停止(延長)が引き金となって, 異数性が形成されることが明らかとなった。
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