研究概要 |
2007年度は河口域における医薬品・抗生物質の動態解明と熱帯アジア水域における医薬品・抗生物質の分布の解明を行った。 多摩川河口をモデルフィールドとして合成医薬品と抗生物質の河口域における挙動を解明した。多摩川河口の淡水側から東京湾に向けて塩分勾配に沿って約2〜3パーミル刻みで12測点を設定し、表層水を採取し、水中の合成医薬品13種と抗生物質12種(サルファ剤8成分、マクロライド系抗生物質4成分)を分析した。観測は春、夏、冬の3回行った。Mixing diagramを描いて対象成分の河口域における保存性と除去について解析を行った。合成医薬品についてはかゆみ止めの皮膚薬crotamitonが3回の観測全てにおいて保存的に挙動した。この結果はcrotamitonが河口域で保存的に挙動する(すなわち除去を受けない)ことを示しており、crotamitonの都市排水のマーカーとしての有用性が示された。一方で、ketoprofene,maproxene,triclosan,thymol,trimethoprym等については河口域での除去が観測され、光分解、微生物分解、吸着・沈降・堆積などの除去過程によるものと解釈された。保存性の高いcrotamitonとthymol等除去率の高い成分の比が未処理の下水由来の化学物質の沿岸水域への流入の指標となることが示唆された。次年度はこれらの比を使って雨天時越流下水の沿岸水域への寄与を評価する予定である。 世界的な医薬品・抗生物質の研究の流れとして、経済的発展途上国の水域における合成医薬品・抗生物質の分布・挙動の研究が焦点として浮上してきた。そこでベトナムメコンデルタにおいて採取した水試料の抗生物質の分析を行った。その結果、家畜由来の抗生物質が広く水域へ流入していることが明らかになった(Managaki, et. al.2007)。そこで、他の熱帯アジア諸国(マレーシアクラン川)でも調査を行った。その結果、途上国の都市河口域での合成医薬品・抗生物質汚染が進行しており、それらの構成が国ごとに異なることが明らかになった。
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