研究概要 |
本年度は、まず、雨天時越流のインパクトの時空的変動を詳細に明らかにするため、東京湾岸のポンプ所放流口から数百m間隔で測点を設定し、雨天後1,2,4,8,16日後に採水を行った。さらに、湾岸域から東京湾全体への医薬品・抗生物質の広がりを明らかにするために、東京湾全域9地点の表層水と底層水を冬季および夏季に採水した。試水は固相抽出後、高速液体クロマトグラフ-タンデム質量分析計で分析した。また、比較的低分子の極性医薬品はガスクロマトグラフで分析を行った。抗生物質が広く東京湾海水中から検出され、検出された7種の抗生物質(sulfapyridine, sulfamethoxazole, trimethoprim, azithromycin, erythromycin-H2O, clarithromycin, roxithromycin)の表層水の合計濃度は成層期10-74ng/L循環期16-49ng/Lであった。底層水中の濃度は成層期よりも循環期に高かった。表層水中の抗生物質濃度は湾奥から湾口に向けて減少した。半減距離は夏季に短く(4-16km)、冬季に長く(10-65km)、光分解・微生物分解の季節変化によると考えられた。堆積物中からマクロライド系抗生物質が低濃度であるが有意に検出された。データを総合して、物質収支計算を行った。いずれの抗生物質も陸域からの負荷(河川と下水処理水の直接放流)に対して、底泥への堆積の寄与は1%以下であった。Clarithromycinは湾内で84%が分解され、湾外への流出は16%と推定されたのに対して、sulfamethoxazoleは湾内の分解はわずか(8%)で陸域から供給されたものの大部分(92%)が湾外へ流出していると推察された。外洋への医薬品・抗生物質汚染の広がりが示唆された。
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