研究概要 |
殺菌剤の一種のTriclosan(TCS)に注目した分析と解析を行った。まず、TCSと共に使用されることの多い殺菌剤成分であるTriclocarban(TCC)とTCSの代謝産物であるMethyl-triclosan(MTCS)の分析方法を確立した。東京湾周辺堆積物では、下水処理放流口およびポンプ所放流口周辺で他地点より高濃度の殺菌剤が検出された。本年新たに対象成分に追加したTCCはTCSと同程度で検出された。MTCSは低濃度(数ng/g-dry)での検出となった。検出された殺菌剤の堆積粒子中濃度から粒子と溶存相の分配平衡を仮定して、堆積物の間隙水中濃度を推定した。下水処理放流口およびポヒンプ所放流口周辺の三地点でTCSではイカダモの最大無影響濃度(0.69μg/L))を、TCCではミシッドシュリンプの半数影響濃度(0.209μg/L)を越えた。また、TCSとTCCは同様の作用機序で毒性を発現することから、これらの環境中濃度は相加的に生物へ作用し得ると考えられるため、相加濃度での毒性影響も推察した。殺菌剤の相加濃度では、上記の3地点に加えCn,21,18においてもミシッドシュリンプの半数影響濃度を超えていた。このことから、性質の類似した成分を複数測定することは、化学物質の潜在的な環境影響を考える上で重要であると考えられた。 堆積物中では低濃度(数ng/g-dry)で検出されたMTCSは、表層水懸濁物中では、数十から数百ng/g-dryの濃度で検出された。懸濁物と堆積物で大きな濃度差が示された。環境中の嫌気度の指標であるCholestanol/Cholesterol比が上昇する、つまり、嫌気的な条件であるほど、MTCS/TCS比が小さくなることが示唆された。このことから、嫌気条件下でMTCSの脱メチル化がおこりTCSが生成される可能性が示唆された。 東京湾柱状堆積物の分析を行い、殺菌剤の汚染の歴史変遷について考察した。TCSとTCCは1960年代より検出され始め、1995年ごろまで単調増加の傾向、そして1995年以降は減少の傾向にあった。
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