研究概要 |
ビスフェノールA(BpA)やノニルフェノールは、プラスチック製品の添加剤などとして使用され、河川の水やプラスチック製品を容器とする食物の中に検出されている。これらの物質は内分泌かく乱化学物質として見いだされ、エストロゲン様の作用があることが報告されたが、最近これらの化合物が中枢神経系の発達に影響を及ぼしている可能性が示唆された。本研究の目的は、このような化学物質による生体への影響の原因やメカニズムを解明するため、化学物質のターゲットタンパク質を明らかにすることである。前年の研究において、BpAがNotch signal系を阻害していること、先行研究によって見いだしたPDIとの結合にはBpAのフェノール部位が重要であることを明らかにした。この成果を踏まえ、本年度は以下の研究成果が得られた。まず、Notch signal系の阻害機構として、蛍光標識した合成ペプチド基質を利用することで、BpAがγ-セクレターゼを阻害していることを明らかにした。この酵素はNotchの細胞内ドメインを切り出すのに必要な酵素である。PDIとBpAの相互作用については、PDIを構成しているa,b,b',a',cドメインをそれぞれ大腸菌に発現して調べた。その結果BpAはa及びb'ドメインに結合することが明らかになった。さらに、aドメインへのBpA結合は、PDIの活性であるイソメラーゼ活性を阻害しなかったが、b'への結合が阻害した。ところで、PCBは生体に取り込まれると水酸化されることが明らかになっている。そこで、PDIの活性について、水酸化PCBがBpAと同じような作用を示すのかどうか検討したところ、BpAよりもむしろ強い作用を示した。以上の結果から、BpAのみならずハロゲン化された芳香族炭化水素も体内で水酸化されることで、PDIやNotch signalといった神経発生において重要と考えられている因子に影響を与えていることが明らかになった。
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