本年度は水素分圧の違いが集積培養物TUT2264の塩素化エテン類脱塩素化に及ぼす影響について解析を実施した。これまでの研究により、ヘッドスペース中の初期水素ガス濃度が0%(v/v)および80%(v/v)条件下でのテトラクロロエテン(PCE)脱塩素化速度を比較すると、初期水素ガス濃度0%系の方が3倍ほど早いことが示されている。しかし、この結果は、0%系および80%系で4回継代培養した結果である。そのため、脱塩素化能力の違いが集積に伴い細菌群集構造の差異あるいは菌密度の違いに依存している可能性がある。そこで、水素分圧が脱塩素化に影響を及ぼしているのかどうかを調べるため、0%系および80%系で集積した培養物を親培養物とし、そこからそれぞれ0%系および80%系を構築した(合計4つの系)。 その結果、集積過程における水素分圧に関わらず、0%系の方が80%系よりも高いPCEおよびTCE脱塩素化活性を示した。また、メタンガスの発生は80%系においてのみ観察され、0%系では観察されなかった。その要因を探るため、脱塩素化細菌"Dehalococcoides"および水素生成細菌Acidaminobacter属細菌について、16S rRNA遺伝子を標的としたreal-time PCR法によってモニタリングを実施した。その結果、Acidaminobacter属細菌は、水素分圧の違いに関わらず4つの系においてほぼ同じ傾向を示した。一方"Dehalococcoides"細菌数は0%系の方が80%系よりも最大で約50倍以上高いことが示された。これらの結果から、低水素分圧条件は効果的に"Dehalococcoides"細菌に水素が供給され、結果として塩素化エテン類を電子受容体とするエネルギー獲得機構を効率的に動かすことができたものと推察された、 これらの結果は、種間水素伝達系に基づく低濃度の水素供給は、メタン生成細菌との水素を巡る競合阻害を回避し、効果的な脱塩素化を促進できることを示した。今後は、メタン生成細菌の多様性及び挙動解析ならびに、ヒドロゲナーゼ等の機能遺伝子の解析を実施し、脱塩素化における種間水素伝達系の解明を図る。
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