研究概要 |
耐火物と溶融物の反応は一種の酸塩基反応であり,両者の酸性度あるいは塩基性度のバランスが反応性を支配している。従来,スラグの塩基性度の指標にはCaOとSiO2の組成比,C/Sが用いられてきた。C/Sによりスラグの塩基性度は表現できるが,反応の相手側である耐火物の酸性度あるいは塩基性度は表現できない。物質を構成する全ての成分を反映させた塩基性度の指標があれば,それを利用することによって,スラグと耐火物の反応性を予測することが可能になり,新規耐火物の設計指針としての応用が期待される。そこで本研究では,種々の酸化物についてX線光電子分光法(XPS)により酸素1s電子の束縛エネルギーを測定し,これが塩基性度の指標として利用可能かどうかを調べるとともに,塩基性度とスラグとの反応性を評価した。 一連の研究により,耐火物の耐スラグ侵食性を向上させるためには,スラグとの反応性が比較的高く,反応によりスラグの粘度を高める作用のある成分の添加が有効であることが明らかとなった。また,反応性の指標として,XPS測定よりもとめたO1s束縛エネルギーが有効であることが合わせて明らかとなった。スラグと耐火物の構成成分のO1s束縛エネルギー差が大きければ両者の反応性は高いと言える。ZrO2やSiC添加試料が低いスラグ浸潤性を示したのは,スラグとの反応によりスラグの粘度が高くなり,耐火物内部へのスラグの浸潤が抑制されたためと考えられる。以上より,スラグとの反応性が低い耐火材料に対して,反応性が高い成分を一部添加することで,スラグ粘度をコントロールし,耐侵食性を高めることが可能になると考えられる。
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