研究概要 |
本研究は,表面弾性波(SAW)を用いて空間的バンド構造変調を電気的に精密制御することにより動的制御量子ナノ構造を形成し,従来の静的量子構造とは本質的に異なる光学的・電気的特性の創出に取り組んでいる。H21年度は,1)動的制御量子ナノ構造のキャリア・励起子ダイナミクス及びバンド構造変調の解明,2)SAWによる電子スピン空間操作,3)SAWによる光物性制御に着目した実験を行った。1)SAWは試料表面からの深さで変化する。この影響がPL偏光度の変化として敏感に検知できることを理論・実験的に突き止めた。同一試料内に複数の量子井戸を配置した構造を用い,時間・空間分解の偏光PLから深さ依存性を系統的に明らかにした。また,ピエゾ電位が[110]と[1-10]で逆符号になる事を利用し,SAWで分裂したPLの偏光を電気的に制御できることも解明した。2)輸送スピンの検出に発光再結合を必要としない空間・時間分解カー回転測定系を立ち上げ,輸送される電子スピンを非破壊で検出することに成功した。スピンは100μm以上という極めて長い距離を輸送されており,さらに無磁場にもかかわらずスピンの歳差運動(0.23GHz)が観測され,スピン軌道相互作用の精密解析を可能とした。また,SAW定在波が磁気光学効果に変調を与えることも解明した。3)不純物準位に捕捉された励起子のSAW依存性に着目した実験を行った。MOCVDで成長した量子井戸試料上でSAW強度を増大していくと,PL強度は始め増加し,その後急激に消失した。比較的弱いSAWでもPLが消失する高純度試料とは異なる振る舞いである。このPL増加現象は,不純物準位に捕捉され非発光,或いは弱い振動子強度であった励起子を,SAW電界が叩き出し,自由励起子に変化させたためと考えられる。この効果はドット系におけるキャリア注入・引き出しに向けたSAWの有効性を示す結果である。
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