本研究は、可能な限り「生きた」状態に近い生物試料をコヒーレントX線回折顕微法で可視化する研究開発を行うことによって、生物現象の理解に貢献することを目的としている。本年度は、昨年度までに開発したコヒーレントX線回折顕微法の装置類やデータ解析法を用いて、更なる応用研究を展開した。特に、本研究課題の当初から関心をもってきた試料の一つである、ヒト精子の観察を行った。その結果、精子の頭部中に、DNAが凝集していることによると考えられる高い電子密度の領域を観察することに成功した。また、細胞内で独自のDNAをもつミトコンドリアに対してもコヒーレントX線回折測定を行った。ミトコンドリアの内膜にはクリステと呼ばれる構造があることが知られているが、このクリステによると考えられる干渉パターンを測定することに成功した。さらに、各種の試料に対して液体窒素温度でのコヒーレントX線回折測定を行った。これら研究により、コヒーレントX線回折顕微法が、厚さ1マイクロメートルを超える細胞や細胞小器官など、透過型電子顕微鏡にとっては厚すぎる生物試料の内部構造を、高コントラストで観察するのに有効であることが示された。本研究課題で行ってきた研究は、この分野の世界的研究をリードするものであり、国内外の学会等で多くの講演の依頼を受けた。これら研究により、可能な限り「生きた」状態に近い生物試料をコヒーレントX線回折顕微法で可視化すことにより、生物現象の理解に貢献するという、本研究課題の目的を達成した。
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