研究概要 |
本課題の目的は,独自の自律型マイクロチップを用いることにより,PCR不要の簡便な遺伝子識別法を実現することであった.昨年度までは電気泳動でこの目的を達成する方針であったが,検出感度が思うように向上しなかったため,本年度は方針を変更し,自律型マイクロチップの流路壁面で標的DNAを捕捉した後,独自の「層流樹状増幅法」を用いて信号を増強することにより,高感度検出を達成することとした. まず末端をビオチン化した21塩基のDNAを標的として条件の最適化を行なった.標的と相補的な30塩基のプローブDNAをガラス基板上に固定化した後,Y字型流路を加工したPDMS基板を接合してマイクロチップを完成した.流路にサンプルを注入して標的DNAを補足した後,増幅試薬(蛍光標識アビジンとビオチン化抗アビジン抗体)を注入することにより信号増幅した.結果として1.7pMの検出限界が得られ,これは増幅しない場合に比べて1000倍以上高感度であった. 次にサンドイッチ法を適用することにより,非標識56塩基DNA中のSNP識別を試みた.標的配列はヒトCYP2D6遺伝子とした.上記と同様に標的DNAを捕捉し,さらにSNP識別用のビオチン化プローブDNAを結合させた後,増幅を行なった.この場合は特異性を上げた分,感度は若干犠牲となり,検出限界は10pM程度となった.検出に要した時間は25分であった.本マイクロチップで使用する試料体積はわすか1μLなので,上記検出限界をDNA分子数に換算すると10^6-10^7コピーとなり,これはヒト血液0.1-1mLに含まれるDNA分子数と同等であるので,この血液サンプル中のDNAを完全に抽出,濃縮できれば,本法によるPCRレス・SNPタイピングが原理的に可能であることが示された.
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