研究概要 |
宇宙環境として微小重力が注目され研究が進められてきたが,宇宙で人間が経験する重力環境は微小重力だけにとどまらない.例えば,月や火星で活動する場合,地球上の重力の1/6や1/3という低重力環境を経験する.そのため宇宙環境での火災安全性評価の確立のためには,微小重力環境だけでなく低重力環境での火炎現象の把握が必要となる.そこで本研究は重力を可変とする落下塔の建設を行い,その塔を利用して低重力環境での燃え拡がり現象を検討することを目的としている. 平成19年度は,落下塔を弘前大学構内に建設した.その落下塔は,落下ラックと5枚の動滑車をワイヤーでつないでおり,この動滑車に制動をかけることで落下ラックにかかる加速度を調節する.落下塔の高さは約14mとした.その内,約10mを落下距離,約4mを落下ラックを静止させるための制動距離とした.落下塔はラック内に約100kgの実験装置の搭載を可能とした.ブレーキなどの動作抵抗を与える機構を動滑車部に備え付けることにより,月面の1/6Gであれば約1.6秒間の,火星の1/3Gならば約1.8秒間の低重力環境を実現できる. 他方,微小重力に関しては日本無重量総合研究所の落下塔を利用して,微小重力場でのろ紙の燃え拡がり限界酸素濃度と酸化剤流速との関係を明らかにした.この結果から,微小重力場でのろ紙の燃え拡がりは,酸化剤速度が5cm/s以上では燃え拡がり限界酸素濃度が通常重力場より小さく,微小重力では火炎が消えにくくなることを示した.他方,酸化剤流速が5cm/s以下では,逆に通常重力場より微小重力場の方が消炎しやすくなり,燃え拡がり限界の酸素濃度が通常重力より増加することがわかった. 以上の結果を踏まえ,次年度は落下塔を用いて低重力場でのろ紙などの燃え拡がり速度や限界酸素濃度等を明らかにする.
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