研究概要 |
主に癌に関連するシグナル伝達分子であるWntおよびヘッジホッグシグナルを標的として,当研究室独自に構築した未利用天然物ライブラリーを用いて,活性天然物の探索研究を行った。 1.大腸癌等で異常に亢進していることが知られているWntシグナル伝達経路に着目し,その転写因子TCFの転写活性を阻害する天然物のスクリーニングを行った。粗抽出エキスに活性が認められたタイ産Eleutherine palmifolia(アヤメ科)について溶媒分画および各種クロマトグラフィーによる分画を行い,活性成分として3種の新規化合物を含む10種の化合物を単離した。これらの化合物は顕著なTCF転写阻害活性を有しており,その中の一つisoeleutherineはヒト大腸癌細胞DLD1等に対して顕著な細胞毒性を示した。また,SW480において本化合物は,TCFの標的遺伝子であるc-mycタンパク質の発現の減少が認められた。 2.膵臓癌等で異常に亢進していることが知られているヘッジホッグ(Hh)シグナル伝達系に着目し,本シグナル伝達経路における転写因子であるGLIの転写阻害活性に関するスクリーニングを行った。粗抽出物に活性が認められたナス科Physalis minimaについて活性成分の分離精製を行い,GLI転写阻害化合物として,physalinFおよびphysalinBを単離した。これらは,Hh/GLI関連タンパクであるPTCHやBcl2の発現を抑制した。抗アポトーシスタンパクであるBcl2の発現減少とGLI転写阻害の関連を明らかにしたのは初めてである。また,Hh/GLIが亢進しているヒト膵臓癌細胞PANClおよびヒト前立腺癌細胞DUI45に対して,これらの化合物は細胞毒性を示すことを見出した。
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