本研究では、多能性幹細胞の分化過程をモニターするのに最適な表現型である、マウスES細胞を用いたin vitro血管再構築系を用いて、血管新生阻害剤を探索し、得られた阻害剤を分子プローブとして用いて分化過程に及ぼす影響を、標的分子・シグナル伝達・エピジェネティクス・遺伝子発現といった多方面から分析することで相互に関連付け、それぞれの遺伝子産物の機能と相互作用ネットワークを明らかにし、幹細胞の分化制御機構を解明することを目的として研究を行ってきた。 これまでに得られた活性化合物について、血管への分化抑制はある種のチロシンキナーゼ活性を阻害していることを明らかにし(投稿準備中)、また、iPS細胞を用いた系においてもES細胞と同様に分化過程をモニターできることを明らかにしている。 本年度は、本アッセイに加えてES細胞の未分化維持活性を指標としたスクリーニングを開始して、日本近海産海洋無脊椎動物サンプル約1000検体に対してスクリーニングを行った。有望な活性を示したサンプルから活性物質の単離を行い、各種の機器分析を行って構造を決定した(投稿準備中)。 また、細胞分化制御化合物のライブラリーを充実させるためには、多様な生物活性を有する化合物を幅広く集めておく必要がある。そこで、幹細胞ベースのアッセイに関わらず、がん細胞毒性、血管新生阻害、および抗原虫作用を有する化合物の探索を行った。また、これまでに得られた化合物について化学合成によって誘導体のライブラリーを作成した。 以上の研究を通して、細胞の分化制御機構に関する基礎的な知見を深めるためのライブラリーを充実させ、これらの化合物を用いて細胞分化制御機構の一端を明らかにできた。
|