単環性芳香族化合物合成の繰返しタイプI型ポリケタイド合成酵素として、Aspergillus terreus由来6-メチルサリチル酸(6MSA)合成酵素ATXについて引き続き検討した。これまでの変異導入実験において、還元酵素ドメインKRによる還元を受けて生成した還元中間体の水酸基を脱水すると考えられていた脱水酵素ドメインDHの変異体DHmで生成物が確認されなかったことから、DHが生成物のアシルキャリヤープロテインACPからのreleaseに関与する可能性について検討した。まず、ATXおよびDHmを大腸菌において発現させ、解析した結果、DHの反応が起こらないと6MSAは遊離せず、中間体が酵素に結合したままになることが明らかとなった。中間体が結合したDHmの化学的加水分解反応により6MSAが検出され、ATXの反応においてDH様ドメインの関与なしにテトラケタイド中間体の生成まで反応が進行することが確認され、DHが酵素から生成物を遊離するための機能ドメインであることが示唆された。そこで、中間体を結合したDHmとintactのATXをincubateしたところ、6MSAが酵素的に遊離されることを確認した。DHm自身にはこの遊離活性は認められず、DH様ドメインが酵素から生成物を遊離するための機能ドメインであることを確認した。さらに、DHドメインとその下流からなる部分長タンパクを発現させ、その活性をモデル基質である6MSA S-NAC(N-acetylcysteamine)体を用いて検討し、この部分長タンパクが6MSA S-NAC体の加水分解活性を持つことを確認した。以上の結果から、このDH様ドメインは生成物の遊離を触媒する新たな活性ドメインであると同定し、これをThioester Hydrolase(TH)ドメインと命名した。
|