研究概要 |
本研究は,昆虫と植物の間で繰り広げられる攻防と共存の歴史の中で重要な役割を果たしてきた植物化学因子を化学生態学的観点から明らかにし,両者の界面で働く"共進化的要因"を分子生物学的見地から考察することを目的としている. 本年度は以下の2テーマについて研究を遂行した. 1)アゲハチョウの食性進化と植物二次代謝物質 アゲハチョウPapilio xuthusの母チョウは前脚にブラシ状の化学感覚毛を持ち,葉の表面を叩きながら寄主植物ミカンCitrus unshiuの特有成分を正確に識別している.産卵刺激化学因子の複合系受容機構を解明するために,前脚附節感覚子におけるフラボノイド・アルカロイド等の味覚神経受容応答を電気生理学手法により測定した.その結果,特定のインパルス波形を与える複数の化合物を明らかにすることができ,その相互作用について知見を得ることができた.また,アゲハチョウ幼虫における摂食刺激物質の体系的な解析を行い,ミカン葉より,環状ペプチド,ポリメトキシフラボノイド,モノグリセライドなどを解明し,糖類等一次代謝物質とのあいだの相乗的刺激効果を検証した. 2)ミバエ-ミバエランの共生と植物二次代謝物質 東南アジア・オセアニア熱帯雨林に自生するラン科植物とBactrocera属ミバエとの受粉を介した共進化過程を化学生態学的見地から究明することを目的とし,自然生態系においてミバエ類を誘引する数種のBulbophyllum嘱ランの花香成分の化学解析を実施した.パプアニューギニアに自生するBulbophyllum hahlianumより,raspberryketone, anisylacetone, zingeroneをはじめとするミバエ誘引性の花香フェニルプロパノイドの存在を明らかにし,Bactrocera cucurbitea, B. frauenfeldi, B. bryoneaなど特定ミバエによる授粉メカニズムについて考察した.
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