研究課題
本年度は、グルタチオン代謝系の鍵酵素γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)について、グルタチオンの加水分解の遷移状態により近い構造のホスホン酸ジエステル型阻害剤を合成展開し、ヒト由来GGTおよび大腸菌由来GGTについて、基質のCys-Gly結合部位の基質特異性を詳細に調べた。その結果、ヒト由来GGTは、基質グルタチオンのCys-Gly部分の側鎖の構造、および、リン原子とCysのα炭素に相当する位置の炭素上の立体化学をきわめて厳密に認識し、グルタチオナーゼとも呼べる厳密な基質特異性を示したのに対し、大腸菌由来GGTの基質特異性は広く、とりわけPhe-Glyなど、芳香環を含むジペプチドの構造を好むこと、また、ヒト由来GGTに比べるとCysのα炭素に相当する位置の炭素上の立体化学に対する認識が甘いことなど、両者の違いを、阻害剤に対する感受性(阻害の構造活性相関)から明らかにし、両酵素の生理学的役割の違いを化学的に裏付けることができた。また、大腸菌GGTについて、Cys-GlyのミミックであるAbu-Gly構造を導入したホスホン酸ジエステル型阻害剤で修飾した酵素をESI-MSで分析し、GGTの小サブユニットの分子量が、阻害剤が活性中心(Thr381)に結合した構造に予想される分子量20323であることを確認し、ホスホン酸ジエステル型阻害剤が、Cys-Gly部分を結合したまま酵素に共有結合していることを確認した。さらに、大腸菌GGTとホスホン酸ジエステル型阻害剤との複合体のX線結晶構造解析をもとに、グルタチオンのC末端グリシンのカルボキシ基を電荷的に認識していると思われるLys562をセリンに置換した変異酵素を作成したところ、加水分解活性は1/2ほどの低下しか見られない一方、Gly-Glyに対するププチド転移活性が1/50以下に低下した。また、Cys-Gly部分をもったホスホン酸ジエステル型阻害剤に対する感受性も著しく低下していた。これらの結果から、ヒトGGTがグルタチオンのC末端グリシンのカルボキシ基を電荷的に認識する際の鍵となる重要な残基は、Lys562であることを突き止めた。なお、阻害剤の一部は、試薬メーカーから試験販売を始めた。
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J. Mol. Biol. 380
ページ: 361-372
和光純薬時報 76(No. 3)
ページ: 2-6