研究概要 |
我々は阻害剤を用いた検討により,5-リポキシゲナーゼがEGF刺激によるヒト扁平上皮がん細胞A431細胞の遊走に関与することを初めて見出した.そこで今回,がん細胞の遊走における5-リポキシゲナーゼの役割について詳細に検討した.5-リポキシゲナーゼはロイコトリエンB_4(LTB_4)やロイコトリエンC_4(LTC_4)の生成に関与する.5-リポキシゲナーゼを阻害することによってA431細胞の遊走を阻害した時,LTC_4を添加することにより細胞遊走が回復した.このことからA431細胞の遊走にはLTC_4が必要であることが示唆された.LTC_4は受容体CysLT1またはCysLT2に結合してシグナルを伝達するが,CysLT1の特異的アンタゴニストMK-571がA431細胞の遊走を完全に阻害した.このことからLTC_4はCysLT1を介して細胞遊走を引き起こしている可能性が示唆された. 一方,細胞遊走にはアクチンに富んだ構造体であるラメリポディア形成が重要であるが,MK-571はラメリポディア形成を阻害した.そこでラメリポディア形成に必要なRho family低分子量G蛋白質Rac1の活性化にMK-571が与える影響について検討した結果, MK-571はRac1の活性化を阻害した.以上のことから, EGF刺激によるA431細胞の遊走には5-リポキシゲナーゼを介して生成されるLTC_4がCysLT1に結合し, Rac1の活性化とそれに伴うラメリポディア形成を誘導して細胞遊走を引き起こすことが示唆された.
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