脱窒菌などは脱窒と共役して生体エネルギーを獲得する硝酸呼吸をおこなうことができる。脱窒を担う酵素群のなかで一酸化窒素を亜酸化窒素(N_2O)に還元するのが一酸化窒素還元酵素(NOR)である。NORは好気呼吸の末端酸化酵素であるシトクロムcオキシダーゼ(CcO)とアミノ酸配列の相同性が見られることなどからNORはCcOの祖先分子であるとみなされており、呼吸酵素の分子進化の観点からも興味深い。本研究ではNORやCcOの機能発現の鍵となる気体分子複合体の結晶構造解析から、呼吸機能の進化の仕組みを解明することを目的としている。本年度はNOR単独での結晶構造の解明を目標として研究を進めた。ターゲットして結晶化および構造決定の可能性が高いと期待される好熱菌Bacillus stearoth ermophillus由来の好熱性NORを選定した。これまでに構築していた大腸菌発現系をもちいて酵素の精製をおこない、すでに得られている結晶化条件を最適化し、2.5Å分解能の結晶構造を決定することに成功した。この結晶構造からNORの活性部位構造が初めて明らかとされた。進化的に近縁のシトクロムc酸化酵素と比較すると、大きな基質結合部位が確保されており、二分子の基質を必要とするNORの機能の構造基盤の一端が明らかとされた。一方、膜に埋もれている部分の構造はシトクロムc酸化酵素と極めて類似しており、構造から改めて両者は進化的に近い分子であることが再確認される。さらに、NORの反応に必要なプロトンはこれまでに提唱されている、膜の外側から供給されるのではなく、膜の内側から活性部位へ伸びるチャネルを通じて供給されることを提案した。
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