脱窒菌などは脱窒と共役して生体エネルギーを獲得する硝酸呼吸をおこなうことができる。脱窒を担う酵素群のなかで一酸化窒素を亜酸化窒素(N_2O)に還元するのが一酸化窒素還元酵素(NOR)である。NORは好気呼吸の末端酸化酵素であるシトクロムcオキシダーゼ(CcO)とアミノ酸配列の相同性が見られることなどから、NORはCcOの祖先分子であるとみなされており、呼吸酵素の分子進化の観点からも興味深い。本研究ではNORやCcOの機能発現の鍵となる気体分子複合体の結晶構造解析から、呼吸機能の進化の仕組みを解明することを目的としている。平成22年度はシトクロムcから電子を受容するcNORの2.7Å分解能の結晶構造を報告した。この酵素の全体構造は、キノールから電子を受容するqNORおよびCcOとよく類似しており、構造からもこれらの分子の進化的類縁関係を伺い知ることができた。一方、CcOの活性部位は、三つのHisが配位したCuとヒスチジンが配位したヘムから構成される複核中心となっているのに対し、cNORでは三つのヒスチジンに加えてグルタミン酸が配位したFe、およびヒスチジンが配位したヘムが活性部位を構成していた。また、CcOはミトコンドリア内膜の内側から外側へプロトンを能動輸送するのに対し、cNORでは膜の内側から活性部位へつながる可能性のあるプロトンチャネルは見出すことができなかった。しかし、cNORの結晶構造は、膜の外側に面した分子表面から、活性部位に向かうチャネルの存在を示した。これらの構造的知見は、呼吸酵素の分子進化および基質や機能を返還する仕組みを解明する上で極めて重要である。
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