研究課題
発展途上地域における政軍関係について、タイを中心としつつ、韓国、インドネシア、ミャンマー、ネパール、ロシア、ナイジェリア、ペルーの事例を比較検討した。軍事クーデタが今後も生じうるのかという疑問を念頭におきつつ、次の2点の解明を試みた。1つは、政治の民主化が軍隊に与えた影響である。国政選挙の実施に伴って、軍隊があからさまな政治介入を控えるようになった後も、政治から完全に撤退することは容易ではないことが明らかになった。たとえばンドネシア、カンボジア、ナイジェリアといった国々では政治介入抑制への代償措置という意味合いを伴って営利活動への従事が容認されており、ペルーでは将校の間で文民政治家への不満や怒りが強い。タイでは、2006年クーデタから1年ほど後に実施された総選挙で想定外の政党が勝利をおさめると、軍首脳はその政権の崩壊に非軍事的に深く関与して、新政権と一蓮托生の関係になったため政治からの撤退が困難になった。もう1つは、クーデタに対する国際的な抑制要因である。そうした要因が機能していないわけではないが、ミャンマーやタイのように国際関係への十分な配慮を怠っている場合にはさほど強く機能していないことが明らかになった。タイではエリートが、先進国や近隣諸国との関係の悪化、外国からの投資の冷え込み、欧米のマス・メディアからの批判といった逆風をものともせず、権力抗争に明け暮れて軍隊を政治に巻き込んでいる。本研究を通じて明らかになったのは、(1)一方では軍政の継続は容易ではないが、他方では軍隊が政治から完全に撤退するのも難しい、(2)政軍関係は国際的な統一基準よりも各国の歴史的経緯に強く規定される、ということである。
すべて 2008
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Fa Dio Kan 6(4)
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筑紫女学園大学短期大学部紀要 3
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